"To Kill a Mockingbird" by Harper Lee

To Kill a Mockingbird

To Kill a Mockingbird

グレゴリー・ペック主演で映画化され、日本ではもっぱら『アラバマ物語』というタイトルで知られている作品。アメリカでは高校生の教科書として使われるくらいで知らぬ人とてない有名な作品なのですが、なぜか日本ではほとんど読まれていません。1984年に暮らしの手帖社から翻訳が出版されているようですが、今まで本屋で見たことがありません。Amazon.co.jpでも表紙画像が載っていませんね。

洋書屋では超定番商品の一つで、これまで何冊売ったかわからないくらいですが、お恥ずかしながら今まで粗筋すら知りませんでした。まぁ、本自体が不親切ってのもあるんですけどね。普通、背表紙には粗筋が書いてあるもんなんですが、この本の場合、1960年に出版されるやベストセラーになってピュリッツァー賞を受賞したこと、翌年映画化されると今度はアカデミー賞を受賞したこと、1800万部も出版されていて、十の言語に翻訳されたことなどが書いてあるだけです。

ふと思いついて読んでみましたが、なるほどこれは名作ですわ。読んでる間、『素晴らしき哉、人生!』や『十二人の怒れる男』といった映画のことが何度も頭に浮かびました。何というか、この世に「正しさ」というものがあると感じさせられるんです。この時代以降は、こういう形の正義というものは描けなくなっていきますからね。

1930年代のアラバマの田舎町での生活を、小さな女の子の視点から描いた作品で、彼女の成長と共に少しずつ周囲の状況がわかるようになる構成になっています。前半は近所のお化け屋敷(と子供たちが呼んでいる)に潜む怪人ブーをめぐるコミカルな雰囲気なのですが、次第に田舎町の暮らしに潜む階級や人種差別の問題がクローズアップされていきます。圧巻はやはり、語り手の父親である弁護士が、黒人青年を弁護する裁判のシーン。アメリカではこの小説を読んで弁護士になろうと思い立つ人が多いという話に納得がいきました。

作品中、夏休みになると隣の家に泊まりにくるディルという少年が出てくるんですが、これが何とトルーマン・カポーティがモデルだということで驚きました。二人は本当に幼馴馴染みで、カポーティが『冷血(In Cold Blood)』の取材旅行をする際にはリーが同行して献辞も捧げられています。

ちなみにこの小説は、文学的「一発屋」の代表作としても知られています。一作だけヒットを飛ばして、その後発表した作品は鳴かず飛ばずという作家は結構いますが、ハーパー・リーの場合はデビュー作の大ヒットの後、一切小説を発表していないという意味で「一発屋」ぶりが徹底しています。