全米図書賞の候補作が発表になりました。

2011年全米図書賞の最終候補作が発表になりました。
発表は11月16日。

Fiction
Andrew Krivak, The Sojourn (Bellevue Literary Press)
第一次大戦を舞台にした人間ドラマ。著者はイエズス会の司祭。
Téa Obreht, The Tiger's Wife (Random House)
こちらはすでにオレンジ賞を受賞し、ベストセラーにもなった作品。「死なない男」「虎の妻」という二つの伝説を媒介として、ユーゴスラビアの過去と現在が結びつく。
Julie Otsuka, The Buddha in the Attic (Knopf)
これは日本人的には注目作。1920年代、夫の顔も知らずにサンフランシスコへと嫁いでいった日本人妻たちの物語。あらすじだけ読むと、いかにも典型的なアメリカ移民の苦労話のように思えるのだけれど、文章が素晴らしいのかとても高評価。
Edith Pearlman, Binocular Vision (Lookout Books)
作家のための作家、ということは通向けの作家イディス・パールマンによる短編選集(含む新作)。
Jesmyn Ward, Salvage the Bones (Bloomsbury USA)
ハリケーンが近づくミシシッピ州沿岸の町で、壊れかけた家族が過ごす12日間の物語。14歳の主人公エシュには母親はおらず、父親は大酒飲み。食料も乏しいなか、弟三人の面倒もみなくてはならない。しかもエシュは妊娠しているのだった。

全米図書賞というと、重厚長大な作品が受賞するイメージがありますが、今年の候補作は比較的小粒な印象。順当にいけば、"The Tiger's Wife"の受賞ということになるんじゃないでしょうか。

今年はノンフィクション部門の方が面白いかも。

Nonfiction
Deborah Baker, The Convert: A Tale of Exile and Extremism (Graywolf Press)
Mary Gabriel, Love and Capital: Karl and Jenny Marx and the Birth of a Revolution (Little, Brown and Company)
Stephen Greenblatt, The Swerve: How the World Became Modern (W. W. Norton & Company)
Manning Marable, Malcolm X: A Life of Reinvention (Viking Press)
Lauren Redniss, Radioactive: Marie & Pierre Curie, A Tale of Love and Fallout (It Books).

マルクス夫妻、キュリー夫妻と二組の夫妻の伝記に加えて、Malcolm Xの新しい評伝。
The Convertは、1960年代にイスラム教に改宗してパキスタンに移住したアメリカ人女性を取り上げたもの。
しかし、何といってもルネッサンス研究者として名高いグリーンブラットの著作に注目。
約600年前、とある図書館の片隅できわめて古い文書が発見される。それは古代ローマの哲学者ルクレティウスによる哲学詩『物事の本質について』の唯一残存する写本だった。そこに書かれていたは宇宙の理に神々の援助はいらぬこと、宗教による怖れは人間の生活を損なうこと、そして忘れ去られていた古代原子論!。この一巻の書物がルネッサンス人間主義を生み出し、20世紀にいたる大勢の思想家・科学者に影響を与えてきた歴史をたどる。読みたい!

ジェイ・ルービン氏のインタビュー

いよいよ今日の午後8時と迫ったノーベル文学賞の発表。一部では村上春樹さんが最有力と噂されてはいますが、個人的には可能性は少ないと思ってます。

ノーベル賞はともかく、『1Q84』英語版の発売を間近に控え、(前半の)翻訳者であるジェイ・ルービン氏のインタビューがCNNのサイトに掲載されています。

http://www.cnngo.com/tokyo/life/haruki-murakamis-translator-what-makes-japanese-man-letters-so-special-823941

そんなに驚くようなことは書いてありませんが、面白かったのはルービン氏が村上さんの長編よりも短編の方を評価していること。

"They're just great. They're more brilliant. They're crazier"

私も長い間村上さんの作品から遠ざかっていた時期があるのですが、The New Yorkerに掲載されていた短編「トニー・瀧谷」の英訳を読んで、改めて彼の作品を読み直すことになったのでした。

後は、村上さんの小説で一番好きなのは『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』で、いつか自分で翻訳してみたいと思ってること。

現在は、村上さんと小澤征爾さんの対談を載せた本を翻訳中ということですが、これは「モンキービジネスVol.13」に掲載されたもののことでしょう。英語版独自編集の本でも出るんでしょうか。気になります。

Amazonの新製品は、Kindle Fire

先日お伝えしておりましたAmazonの新製品が発表されました。
詳しくは、Wiredのこちらの記事、もしくはAmazon.comのトップページをご覧ください。

http://www.wired.com/epicenter/2011/09/amazon/

ざっと説明しますと、Amazonが新たに発売するタブレットの名前はKindle Fire。従来のKindleに特徴的だったe-inkではなく、バックライト方式を採用。もちろんカラーです。サイズは私が持っているKindle 3とほぼ同じで、厚さが3割増し程度。Android OSを採用しており、ブラウジングはもちろん、映画や音楽、ゲームを楽しむことができます。一方で、他のタブレットでは標準装備されているようなカメラやGPSや3G機能はついておらず、メモリも8ギガバイトしかありません。その代わりにクラウドストレージを使ってくれということらしいですね。気になるお値段は199ドルで、確かにこれは安い。タブレット本体を売るのが主目的ではなく、本や音楽や映画やゲームを売るのが目的だというAmazonならではの価格設定と言えるでしょうか。

しか〜し、これだけでは終わらないのです。新型Kindleとして、Kindle Touchなるものも11月に新発売。こちらは従来通りのe-inkながら、iPhoneのように画面をタッチしてページをめくることができ、不便だったキーボードも画面をタッチして入力できるようにしたもの。3G回線付きで140ドルWi-fiだけなら何と99ドルですと!

従来通りサイドボタンを押してページをめくるタイプのKindleも新しくなって、より薄く、より軽く、そして不便だったキーボードもなくなって、これが79ドル!一昔前に比べたら、まるで夢のような値段です。

TwitterのTLを見ているかぎりでは、今のところ日本では購入できないようですね。ま、いずれにせよ、私は新型機に買い換える予定はありませんけど。

<追記>
Kindle FireKindle Touch はアメリカ国外では購入できないようになっているようですが、廉価版Kindleなら購入できるようです。ただし79ドルなのはアメリカ国内向けで、海外向けは109ドル。これに送料が加わって122.98ドルだけど、ドルが安いからこれでも1万円切りますな。

明日28日に、Kindle Tablet発表か

明日28日にAmazonがプレスイベントを開くということで、注目が集まっております。大方の予想では、Amazon TabletないしKindle Tabletの発表だろうってことですね。

アップルがiPadで成功したのを受けて、各社いっせいに新型タブレットの開発に乗り出しましたが、いずれも鳴かず飛ばずといったところ。これまで読書専用端末Kindleでシェアの過半数を占めてきたAmazonが、今年のクリスマス商戦を前に、満を持してタブレット競争に参入すると見られているわけです。

技術系ブロガーによれば、すでにAmazon.comのプログラムの一部が書き換えられており、新サービスの準備が進められているようです。詳細は不明ながら、Kindleストアでは「prime ebooks」という項目が登場していて、この商品は図書館のように「返却」できたりするようです。さらに、個人の文書をクラウドサーバーにあげておいて、それをKindleで読めるようにするといったサービスも用意されている模様。

明日の発表を楽しみに待ちましょう。

ブッカー賞の予備知識

来月18日に発表されるマン・ブッカー賞のショートリストは以下の通り。

Julian Barnes The Sense of an Ending (Jonathan Cape - Random House)
Carol Birch Jamrach’s Menagerie (Canongate Books)
Patrick deWitt The Sisters Brothers (Granta)
Esi Edugyan Half Blood Blues (Serpent’s Tail)
Stephen Kelman Pigeon English (Bloomsbury)
A.D. Miller Snowdrops (Atlantic)

ちなみにブッカー賞というのは、イギリス連邦(およびアイルランドおよびジンバブエ)に属する国民によって英語で書かれた長編小説が対象。アメリカの作家は対象外です。ジャンル小説への評価が不当に低すぎるとか(選ばれたことがない)、20世紀前半を舞台にした作品が選ばれすぎとか(選考委員の子供時代だから?)、選考過程に問題があるとか(出版社ごとに2作推薦できる)、色々と批判はあるものの、毎年選ばれるタイプの文学賞としては世界最高の権威を持っていると言えるでしょう。

さて、今年のブッカー賞は、ロングリストが発表された時点で、「ミステリに属するような作品が多すぎるんじゃない?」という話題で持ちきりになりました。ショートリストに残った作品を見るかぎりでも、ミステリ仕立ての作品は確かに多いようです。

本当なら候補作を全部読んでレビューを書いた上で、受賞作予想を出来るといいんですが、あいにくワタクシめの能力を遥かに超えております。

しかし、ご安心を。「ビンゴーの日記」という素晴らしいブログが、全作品を紹介してくださってます。総括によりますと、今年は全体に低調でジュリアン・バーンズの作品が突出しているとか。個人的に一番気になっていた西部劇のパロディ"The Sisters Brothers"もなかなかの出来ということですので、ブッカー賞の発表の前にこれくらい読んでみようかなっと。

ちなみに、ブッカー賞の選考は最近ちょっとハズしがち。去年選ばれた作品も、世評はかなり厳しいもんでした。