『螺旋』読了

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螺旋

螺旋

うーん、ちょっと期待はずれかな。
帯を見た時は、メタフィクショナルな要素を含んで、緻密な構成を持った小説だと期待していたんだけれど、内容的にはわりに普通。都会育ちの編集者が田舎町での慣れない人探しに四苦八苦する話……と要約しちゃうと身も蓋もないけど。

『螺旋』という小説をめぐって、二つのストーリーが同時進行していくのだけれど、このシンクロ率がはなはだ低い。『螺旋』の著者を探すというメインプロットと、『螺旋』を読んでいる麻薬中毒者のサブプロットとが殆ど絡みあわない為、はっきり言えばサブプロットの部分を全部削除しても影響ないように思える。帯には「2つのストーリーが交錯する時、衝撃の事実が明らかになる!」って書いてあるけど、うーん、だいぶ嘘があるなぁ。

作中の中心テーマとなる『螺旋』という小説はSF小説らしく、ヒューゴー、ネビュラーをはじめ各種の文学賞を獲得している傑作という設定。現代の『指輪物語』とも言うべき圧倒的な人気を誇り、世界中でベストセラーになっている……んだけれど、簡単なあらすじで紹介されるだけのストーリーがちっとも面白そうじゃない。宇宙版の聖杯探求譚といった趣向で、太古の宇宙種族間会議で編纂された『知の書』の断片を求めて、ヘデック族の親子ペンテルとモンが宇宙を放浪する話……らしい。いくらなんでも数千ページに及ぶ大長編のあらすじがこれだけとは! 作者にとっては「続編が待たれている大ベストセラー小説」という容器が必要だっただけで、中身まで満たす義理はないのだけれど。

別につまらない小説ってわけじゃないのよ。文章は達者だし、人物造形も巧みなもんだし、幾つかのシーンは感動的ですらあるし。エンターテイメントとしては軽く及第点をクリアしてます。ただ私が愛するようには「小説」を愛してない人なんだなという感じは受けました。