2010ブッカー賞ショートリスト発表

ちょっとサボってる間に、ブッカー賞のショートリストが発表になっております。候補作は以下のとおり。

* C by Tom McCarthy
* The Finkler Question by Howard Jacobson
* In a Strange Room by Damon Galgut
* The Long Song by Andrea Levy
* Parrot and Olivier in America by Peter Carey
* Room by Emma Donoghue

ピーター・ケアリーはもう何度目なんでしょう。江戸時代の長崎を舞台にしたデイヴィッド・ミッチェルの本は残念ながら落選してしまいました。もう一作話題になっていたChristos Tsiolkas の"The Slap"も落選してしまいましたね。

個人的に注目してるのはTom McCarthyの"C"なんですが、最近やたらとイギリス実験小説の復権みたいな文脈で語られています。

映画版『わたしを離さないで(Never Let Me Go)』の新しいトレイラー

カズオ・イシグロの『わたしを離さないで(Never Let Me Go)』映画版の新しいトレイラーが公表されました。

http://www.guardian.co.uk/film/video/2010/sep/10/never-let-me-go-trailer?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter

6月に公開されたトレイラー(http://www.youtube.com/watch?v=kymQcM4ej3w)は主人公たちの子供時代の映像がほとんどでしたが、今回のものは原作後半の青年時代の映像が含まれています。映画はトロント国際映画祭(9月)でプレミア上映され、ロンドン国際映画祭(10月)の幕開けを飾り、来年1月21日にイギリスで公開されます。

ヒューゴー賞の集計方法

Hugo Awards の公式ページに掲載されている「投票システム」の説明は下のリンクをご覧ください。

http://www.thehugoawards.org/the-voting-system/

予備投票のことから説明してあるので長いですが、最終投票については途中の「How to vote in the final ballot」以降を読んでもらえばOK。

確かに複雑なシステムですが、必ず過半数の支持を得た作品(ないし人)が受賞する仕組みとなっていて、なるほど合理的です。

つまり、
過半数の人が1位に選んだ作品」
があれば文句なく優勝なのですが、そうでない場合は
過半数の人が1位または2位に選んだ作品」
が選ばれ、それでも決まらない場合は
過半数の人が1位から3位に選んだ作品」
過半数の人が1位から4位に選んだ作品」
という具合に、最後の二作が残るまで続くわけです。

で、今年の集計結果がこちら。
http://www.aussiecon4.org.au/hugoawards/files/2010HugoVotingReport.pdf

最終的にミエヴィルとバチガルピを1位から5位に選んだ人が同数の380人いたということでダブル受賞になったわけですが、最初の集計の段階でミエヴィルとバチガルピを1位にランキングした人も同じく240人で同数だったことがわかります。何だかすごい。

2010年ヒューゴー賞発表!!

2010 Hugo Awards の受賞者が発表になりました。

http://www.locusmag.com/News/2010/09/2010-hugo-awards-winners/

主要な賞は以下の通りです。詳しくは上のローカスのページをご覧ください。

Best Novel (tie)

* The City & The City, China Miéville (Del Rey; Macmillan UK)
* The Windup Girl, Paolo Bacigalupi (Night Shade)

Best Novella

* “Palimpsest”, Charles Stross (Wireless)

Best Novelette

* “The Island”, Peter Watts (The New Space Opera 2)

Best Short Story

* “Bridesicle”, Will McIntosh (Asimov’s 1/09)

今年は何と言っても長編部門のタイ受賞に注目。これは1966年、1993年に続く3度目のことだそうです。
ヒューゴー賞の集計方法は複雑で説明しづらいのですが、最終的に残った2作に対して1000票程度の決選投票が行われたはずで、その結果が同票だったというのは凄いことです。山岸真さんの御指摘により修正。「決戦投票をする」というのは間違いで、「最後に2作が同票で残った」というぐらいで誤魔化しておきます。実際の票集計の推移は数日中に発表されると思うので、わかったらまたご報告します。ヒューゴー賞の集計は本当にややこしくて、知りたい方はこちらのサイト(http://www.jmuk.org/diary/index.php/2009/10/03/hugo-awards-voting/)をご参照ください。)
ミエヴィルという実力者が日本でもようやく受け入れられつつあるこの時期に、バチガルピという十年に一人の新人と共にこの賞を受賞したということは、今後長く記憶に残ることでしょう。

ノヴェラ部門のストロスは大方の予想通り。
ノヴェレット部門を受賞したピーター・ワッツは今年アメリカでひどい目に会いましたから、今回の受賞はほんとによかったです。
一時期、ごく一部のTwitterで話題を集めたKij JohnsonのSparは短編賞を取れませんでしたが、まぁ仕方ないですね。

今年はTwitterのおかげでリアルタイムで受賞式の様子がわかってとても楽しかったです。はやぶさの帰還につづいて、今回も大活躍だった@Wishigameさんには大変感謝しています。

世界幻想文学大賞2009の候補作発表

世界幻想文学大賞の候補作(2009 World Fantasy Awards Nominees)が発表されました。

http://www.locusmag.com/News/2010/08/2009-world-fantasy-awards-nominees/

主要な部門は以下の通り。詳細はローカスのページを御覧ください。

Novel

* Blood of Ambrose, James Enge (Pyr)
* The Red Tree, Caitlín R. Kiernan (Roc)
* The City & The City, China Miéville (Macmillan UK/ Del Rey)
* Finch, Jeff VanderMeer (Underland)
* In Great Waters, Kit Whitfield (Jonathan Cape UK/Del Rey)

Novella

* The Women of Nell Gwynne’s, Kage Baker (Subterranean)
* “The Lion’s Den”, Steve Duffy (Nemonymous Nine: Cern Zoo)
* The Night Cache, Andy Duncan (PS)
* “Sea-Hearts”, Margo Lanagan (X6 )
* “Everland”, Paul Witcover (Everland and Other Stories)

Short Story

* “I Needs Must Part, the Policeman Said”, Richard Bowes (F&SF 12/09)
* “The Pelican Bar”, Karen Joy Fowler (Eclipse Three)
* “A Journal of Certain Events of Scientific Interest from the First Survey Voyage of the Southern Waters by HMS Ocelot, As Observed by Professor Thaddeus Boswell, DPhil, MSc, or, A Lullaby”, Helen Keeble (Strange Horizons 6/09)
* “Singing on a Star”, Ellen Klages (Firebirds Soaring)
* “The Persistence of Memory, or This Space for Sale”, Paul Park (Postscripts 20/21: Edison’s Frankenstein )
* “In Hiding”, R.B. Russell (Putting the Pieces in Place)
* “Light on the Water”, Genevieve Valentine (Fantasy 10/09)

個人的には、Collection部門にノミネートされているBrian EvensonのFugue Stateが気になります。読んだので。

長編部門5冊の内、3冊も棚に並んでるのはうちの店ぐらいだろう。ハッハッハ(売れてないけど)。

全米図書賞vs.ピューリッツァ賞

Twitter上で翻訳家の鴻巣友季子さんが、最近は全米図書賞やピューリッ

ツァ賞の受賞作すら未訳のまま残っていることが多いと嘆いておられまし

た。気になってので、翻訳状況を調べてみました。


◆National Book Award for Fiction

2000: In America by Susan Sontag
2001: The Corrections by Jonathan Franzen
→『コレクションズ』(品切)
2002: Three Junes by Julia Glass
→『六月の組曲』(品切)
2003: The Great Fire by Shirley Hazzard
2004: The News from Paraguay by Lily Tuck
2005: Europe Central by William Vollmann
2006: The Echo Maker by Richard Powers
2007: Tree of Smoke by Denis Johnson
→『煙の樹』
2008: Shadow Country by Peter Matthiessen
2009: Let the Great World Spin by Colum McCann


◆Pulitzer Prize for Fictioni

2000: Interpreter of Maladies by Jhumpa Lahiri
→『停電の夜に』
2001: The Amazing Adventures of Kavalier & Clay by Michael Chabon
→『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』
2002: Empire Falls by Richard Russo
2003: Middlesex by Jeffrey Eugenides
→『ミドルセックス』(品切)
2004: The Known World by Edward P. Jones
→『地図にない世界』(白水社より刊行予定)
2005: Gilead by Marilynne Robinson
2006: March by Geraldine Brooks
→『マーチ家の父 もうひとつの若草物語
2007: The Road by Cormac McCarthy
→『ザ・ロード
2008: The Brief Wondrous Life of Oscar Wao by Junot Diaz
→『オスカー・ワオの短く凄まじい人生(仮題)』(新潮社より近刊)
2009: Olive Kitteridge by Elizabeth Strout


こうして並べてみると、未訳の状況が悲しいというよりも、全米図書賞のハズシっぷりが目立ちますね。ジョナサン・フランゼン、デニス・ジョンソン、そしてコラム・マッカンへの授賞は的確だと思いますが、それ以外は……。無名の作家に与えて、その後活躍が見られなかったり、大御所作家に時期はずれに与えてみたりといったことが多いように思います。重厚長大で知的な作品に与えられがちなのも、翻訳が敬遠される一員かも知れません。

その点、ピューリッツァ賞の方は、作家が大きく一歩踏み出したり、話題を集めるきっかけになっているようです。日本でも大抵は翻訳されているわけですが(刊行予定を含む)、リチャード・ルッソの『エンパイア・フォールズ』が未訳なのが不思議ですね。これはフランゼンの『コレクションズ』と並んで当時話題を集め、ドラマ化までされた作品なんですけど。WOWWOWで放送までされてるのにねぇ。