バチガルピの"The Windup Girl"読書中

近未来のタイを舞台に、タイ語、中国語、日本語、マレー語などが飛び交い、なかなかの手ごわさですが、緻密な世界設定に加えて、登場人物たちがみな陰影に富んだ性格の持ち主で魅力的。申し訳ないけど、Boneshakerよりは小説として一枚も二枚も上手(うわて)と見えます。

SFマガジンに翻訳が掲載された短編「カロリーマン」「イエローカードマン」で描かれたのと同じ近未来の地球。環境破壊の影響で海面が上昇し、ニューヨークやムンバイやラングーンなど低地の都市は海中に没している。石油の枯渇により世界の産業構造は根本的な見直しを迫られた。さらに植物を蝕む伝染病が蔓延し、大半の農作物が全滅。アメリカ中西部に拠点を持つ数社のバイオ企業が、世界中の穀物市場を独占するこことなった。そんな中、唯一タイ王国だけは厳格な検閲によって伝染病の蔓延を防ぎ、独自の遺伝子バンクに基づく遺伝子操作により新種の作物を作り出していた。王国の秘密を探るべく、バイオ企業はひそかにカロリーマンを送りこむのだが……

第一章の視点人物は、当のカロリーマン。タイ・バンコクの市場に山と積まれたエキゾチックな果物を前に外国人が立ち止まるという見慣れた光景で幕を開けるが、やがてその光景がいかに異様なものであるかが次第に明らかになる。
第二章の視点人物は、カロリーマンに雇われて秘書・会計士・現地人との交渉役など厄介事をすべて押しつけられているマレー系中国人。難民と同義語であるイエローカードマンである。もとは海上貿易で財をなした海商王だったが、新興のイスラム勢力に目をつけられ一族郎党皆殺しの憂き目に会っていた。
第三章の視点人物は、日本製 Windup Girl であるエリコ。高度な遺伝子操作技術により裕福な高齢者向けの愛玩物として開発されたエリコだったが、主人に捨てられた今はバンコクの秘密クラブでSMショーを強いられるまでに落ちぶれている。
第四章の視点人物は、国民的英雄となっている環境省の検閲官。『アラビアのロレンス』のファイサル王子そのままに一隊を率いて税関を急襲し、違法な輸入物と賄賂を巻き上げている。直情径行タイプの検閲官とは対照的に一切感情を表さない副官の女性との組み合わせが秀逸。

一応この四人を中心に物語は展開していく模様。
読んでるうちに調べたくなることがいっぱいでてきて遅々として進みませんが、読んでて楽しくて仕方ないので最後までいけそうです。

こちらのサイトで第九章まで公開されていますので、興味のある方は是非チャレンジを。
http://www.webscription.net/chapters/1597801577/1597801577.htm