最近読んだ本

『クリムゾンの迷宮』 貴志祐介
新世界より』が非常に面白かったので旧作もチェックすることにしました。この作者の本は他に『黒い家』を読んだきり。開巻ゲーム小説と判明し、いささか落胆。人物造形も筋書きもRPGを模した小説にありがちな平板なもので、こういうのが好きな人には楽しめるんでしょうが、個人的にはちょっと……。とは言え後半で食人鬼が姿を現わすあたりから俄然目が離せなくなり、一気に読んじゃいました。やっぱり『黒い家』の作家だわ。読んで損はありません。

博士の愛した数式』 小川洋子
ベストセラーになった小説にはどうも手が伸びないという悪い癖があって、お恥ずかしながら今頃読んでます。あまりにも有名な小説なので私が粗筋を紹介するまでもないでしょう。ハートウォーミングな小説で、これはこれで非常に良いものなんですが、正直物足りなさを感じました。全体にほんわりとして、大島弓子の後期の作品みたい。嫌な言い方をすれば、去勢されている感じ。出てくる人は皆いい人で、子供はけなげで、博士は可愛くて、角は丸まってて、表面はすべすべしている。語り手が28歳の子持ち独身女性という設定なのに、性的な問題は巧妙に隠されているし、数学者という難しいテーマを扱いながら、実際に登場するのは小学生でもわかる程度の初歩的算数のみ。とんがったりひっかかったりするような部分を全て取り除いて、すこぶる居心地のいい小説空間を作っているわけで、そういうものとしては完璧な仕上がりでしょう。大人のためのファンタジーという言葉がこれほど似合う作品はないなぁ。