最近読んだ本

『月長石』 ウィルキー・コリンズ著 創元推理文庫
『回想のブライズヘッド』 イーヴリン・ウォー著 岩波文庫
『探偵は誰だ!』 パット・マガー著 創元推理文庫
『大仏破壊―ビン・ラディン9・11へのプレリュード』 高木徹著 文春文庫

ぐらいかな。読みかけて放りだした本は数知れず。

『月長石』は、19世紀半ばに書かれた推理小説の元祖のような存在。語り手が順番に交替することで有名。以前冒頭部分だけ読んでいたので妖しいインド人たちが暗躍する冒険ロマンなのかと思っていたら、上流階級のお嬢様をめぐって二人のハンサムな従兄弟が鞘当てをする話だったので驚いた。いささか冗長だし、謎解き部分は現在の目から見ると無茶にも思えるけど、リーダビリティが高いので古臭いとは感じない。宗教に凝り固まった貧しい親戚の叔母さんの語りパートが素晴らしい。

『回想のブライズヘッド』は著者の自伝的小説。1920年代初頭のオックスフォードを舞台に耽美的な同性愛を描いた前半と、戦争の気配が色濃く漂う時代を背景に不倫の愛を描いた後半とで、読者によって好みが分かれそう。私は後半が好み。叙情的な意味でとても愛すべき作品とは思うんだけど、中心主題であるカトリックの問題は正直まったく理解できない。ので、本当に読めたという気がしなかった。そういえば最近は「英国におけるカトリックアイデンティティ」みたいなテーマは流行らないのね。インドや中東からの移民二世・三世らのエスニック・アイデンティティのほうが断然注目度高い。

『探偵を捜せ!』のパット・マガーは『被害者を捜せ!』など独特の趣向を凝らした作風で有名。本書は人里離れた山荘で夫を殺した妻が、これから訪ねて来るはずの探偵を見極めようと四苦八苦する話。語り手の犯人が実にイヤな女で、素敵にどんよりした気分にしてくれます。訳文も古臭くてどうにも乗り切れませんでした。細かいようだけど、車に乗ってエンジンをかける前にラジオが流れてるのはおかしいよね。パット・マガーは日本でこそ文庫で現役だけど、アメリカでもイギリスでもとうに忘れられた作家で、著作もすべて絶版。実はエラリー・クインを含めたパズル系ミステリの古典はアメリカではほぼ全滅。好事家向けの高額本がほそぼそと販売されている程度だったりします。

アフガニスタンが再びきな臭くなってきた現在、『大仏破壊』を読むとなかなか感慨深い。タリバンってのは何と言うか新撰組みたいなもんなのね。田舎で自警団みたいなことやってた連中が、偶然の巡り合わせで世直しを引き受けることになっちゃう。腐敗した政治家や軍閥を一掃したら田舎に帰るつもりだったのに、気がついたら政治家は誰も残ってないから仕方なく自分たちが国家を運営することになる。国民的からみれば救世の英雄なんだけど中身は田舎の神学生でしかないし、ろくな教育も受けていないもんだから、自分達の見知らぬ風俗はすべて反イスラム的だとして禁止しちゃう。新撰組が「局中法度」を全国規模の法律にしちゃったようなもんだ。士道に背いたら全員切腹なわけですよ。経済のことも知らないし、外交のこともまるで無知なわけで、国が混迷するのは当然の理。そんなところに稀代のオルガナイザーであるオサマ・ビン・ラディンが現われて、言葉たくみに国を丸ごと乗っ取っちゃったというのがアフガニスタンの悲劇。