アマゾンとターゲットとウォルマートは本を殺すか?

日本の出版業界が瀕死なのはみなさん御存知の通りで、再販制度による価格保証が諸悪の根源のように言われることが多いです。他の小売業界でやってるように、本を買い取りにして、売れない本は書店の判断でどんどん値引きするようにすれば問題が解決するんじゃないかって話。そんな時、外国の書店はみんなそうなんだから……ってことがよく言われるんですが、そんなことはありません。本の販売にあたっては、特別な保護措置を取っている国も多いのです。

アメリカでは巨大書店による値引き競争が過激になりすぎていて、批判が高まっているところです。たとえば先週の"The Atlantic Wire"には、「アマゾンとターゲットとウォルマートは本を殺すか?」という記事が出ています。この記事によると、アメリカ書店協会(American Booksellers Association)は、オンライン書店大手三社が不当な値引き価格で販売しているとして、司法省に対し調査を依頼したということです。市場を独占する三社による略奪的価格設定のために、出版産業と独立系書店が多大な不利益を被っているというもの。例えば今月出るサラ・ペイリンの自伝は、定価28.99ドルのところ8ドル代で販売されている。

司法省の判断を書店関係者が固唾を呑んで見守っている状況ですが、専門家の意見を読む限り、どうやら書店側に不利な状況のようです。市場を独占している一社が価格分岐点以下の値段設定をしているわけではないので、健全な価格競争とみなされる可能性が大きいとか。

本の価格が自由化されるということは、こういう事態も起こりうるということです。じゃあ、他の国はどうなっているかというと、こちらのウォール・ストリート・ジャナールの記事によると、ヨーロッパの多くの国々(イギリスを除く)では本の価格は固定されていて、事実上価格競争は禁止されているとされています。

この記事は正確じゃなくて、私が知ってる限りでも例えばフランスでは5%までの値下げ販売は許可されてたように思います。他にもスウェーデンなどでは再販制度は廃止されていたはずです。それでもアメリカのような馬鹿馬鹿しい値下げ競争からは救われてきました。ではヨーロッパの例外であるイギリスはどうかというと、長年続いた価格保証制度(Net Book Agreement)を1990年代に撤廃したところ、巨大チェーンとスーパーマーケットによる値下げ競争が激化し、独立系書店が激減してしまったという悲しい歴史があります。

再販制度さえ止めれば出版業界が立ち直るというわけではなかろうという話でした。