『この文学がすごい!2010』は出版されない

しかしあれだね。日本の文学界はこういうベストを嫌うね。「純」文学界ってことだけど。

海外で年末に出るベストブックのリストってのは、基本的には普通小説やノンフィクションのリストだ。夏休み前に出るサマーリーディングのリストも同様。いくらダン・ブラウンやジェイムズ・パターソンが売れていようと、そういう作品はリーディング・リストには入らない。もちろんAmazonなんかはジャンル別のリーディング・リストを発表するけど、ミステリーやSFというのは明らかに普通小説とは扱いが違う。Timeなんかでは時々 Guilty Pleasure(罪深き悦び)という特集を組んだりして、作家や書評家がおおっぴらに読んでることは公言できないけれど、実は〜〜のファンでしたという作品を告白したりする。ミステリーやロマンス小説というのは、そういうところで語られるものだったりするわけ。(西村京太郎や山村美沙扱いに近いか?)。

一方わが日本で年間ベストというと、もちろん週刊文春と「このミステリーがすごい!」をはじめとするエンターテイメント系の小説を対象としたものばかりだ。「このミス」にあやかって、『このSFがすごい!』、『このライトノベルがすごい!』、『このマンガがすごい!』といった類似本が数多く出版されてるけど、『この文学がすごい!』って本だけはなぜか出ない(笑)。もちろん売れないからって理由は大きいだろうけど、純文学系の作家さんたちが序列をつけられるのを嫌ってきたというのも大きいんだろうと思う。

文学賞メッタ斬り!』をお読みになった方は御存知でしょうが、日本には大小数え切れないほど文学賞がもうけられている。ところが、不思議なことに年間最優秀の小説を選ぶブッカー賞や全米図書賞のような賞は一つもないのだ。文学賞で最高位に位置する二賞のうち、芥川賞は新人に与えるものだし、直木賞は作品に対するというよりは作家個人に与えられる性格が強い。吉川英治文学賞とか、泉鏡花文学賞とか、三島由紀夫賞とか、注目すべき賞は色々あるけれども、特定の文学グループのなかで一定のキャリアを積んだ人に与えられるステップアップの証といった趣き。プロとして活躍している全作家が同じ土俵に立って年間の最優秀作品を選ぶという趣旨の文学賞はない。全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」が一番近いけれども、選考にあたる人の年齢や傾向が偏り過ぎていて、本当の意味での年間ベストとは言いがたいわね。

プロの作家に対する文学賞は必要ないという意見の作家が多いという話は聞くんだけれど、なんとか日本版ブッカー賞的なものは作れないもんだろうか。誰が選ぶかという難題を含めて、ハードルが高いのはわかる。でもこういう賞ができれば、本屋も盛り上がるし、候補作に選ばれた作品も売れる。年間最優秀と認められた作品は、翻訳されたら海外に対するアピールも強くなる。今は村上春樹が日本文学を一人で代表してるわけだけど、彼の小説はあまり日本的とは言えないし。現代日本を描いた作品をもっと発信していかないと、日本はいつまでたっても東洋の神秘の国のままなんだけど。