デビルマン誕生、というかジョー・ヒルの新作『Horns』のこと

Horns

Horns

ジョー・ヒルが出たついでに、彼の新刊『Horns』も御紹介。滅多にしないことですがハードカバーで買って読んじゃいました。

主人公のイグが泥酔したあげく不始末をしでかした翌朝、目が覚めると額に二本の角が生えていたというのが幕開け。頭がおかしくなったのかと病院に駆け込むものの、医者はイグの話も聞かずに看護婦とヤリたいという妄想をぶつぶつ呟くばかり。そう、この角に近づいた者は自分の最悪の欲望を告白せずにはいられなくなってしまう。しかも、イグが直接手を触れることで、心に隠している疚しい記憶さえも伝わってくる。イグは悪魔の能力を手に入れたのだ……。

と、こう書くとコミカルなスーパーヒーロー物のように思えるが、主人公のイグの背景には重い過去が横たわっている。15歳で一目惚れして10年近く付き合っていた恋人が、一年前にレイプされ殺害されたのだ。しかもイグは容疑者として連行され、証拠不十分なまま釈放。町の人間は全員イグが親のコネを利用して刑罰を逃れたのだと思っている。イグは自分が手に入れた能力を利用して真犯人をつきとめるべく行動を開始する……

まぁ、未訳の本なんで、あらすじはこれくらいで。『ハートシェイプド・ボックス』ほどストレートにホラー小説じゃなくて、コミカルな要素もあり、青春小説の要素もあり、『羅生門』タイプの謎解き要素もあり、その間に主人公はどんどん本物の悪魔みたいになっていく(笑)というサービスたっぷりの娯楽作でした。オススメ。まぁ、傑作短編集『20世紀の幽霊たち』ほどのインパクトはないですけど。
舞台となっているのがニューハンプシャー州の小さな町なんだけれど、福音派キリスト教が支配的な土地柄とみえて子供たちが性的にすごくウブなのね。十五歳のイグが彼女に一目惚れするのは教会のなか。しかも各々親が同伴だから、声をかけるのも並大抵ではない。いまどき何をやってるんだと、もどかしくなるようにピュアピュアな初恋話がひとくさり進行する。ひと昔前はアメリカ映画を観て「むこうはススんでるなぁ」と感心したもんだけど、いまや日本の若者の方がずっとススンじゃってるんだなと思いました。