"The Love We Share Without Knowing" by Christopher Barzak

The Love We Share Without Knowing: A Novel

The Love We Share Without Knowing: A Novel

先日発表されたネビュラー賞の長編候補にクリストファー・バルザック(Christopher Barzak)という印象的な名前の作家が挙がっていたので、思わず注文してしまったのでした。いざ届いてみると、実に純文学的な装丁にまず驚かされ、裏表紙のあらすじによると現代日本を舞台にした「ムラカミ風(Murakamiesque)」な作品であると書いてあったので、さらに驚きましました。

もっと注文しとけば良かったんだけど、今は重版中のようで、すぐには手に入りそうもありません。

著者インタビューによると、一つの大きな物語を複数の視点から描くモザイク形式を採用している模様。ウィルキー・コリンズの『月長石』からウィリアム・フォークナーの『響きと怒り』を経て、ポストモダン以降ではさほど珍しくはないのですが、まぁ……要するにドラクエ4みたいな感じです。ジ

第一章は親の都合で日本に連れて来られて意気消沈しているアメリカ人少年が語り手。よくあるカルチャーギャップ話と思いきや、思いがけず古典的な幽霊譚に……。
第二章は、集団練炭自殺を試みる四人の男女の話。
第三章は、日本人の恋人を失ったゲイのアメリカ人教師が語り手。
第四章の語り手はパンクバンドをやってるノブオという自己中心的な青年。電車のなかで盲いた老人と見つめ合うという不思議な体験をした後、日常から逸脱してしまう話。

これで三分の一ぐらいだけど、それぞれ短編小説として完結していながら各話の登場人物たちがつながりあっていて、本人たちの気づいていないところで大きな物語になっている(らしい)。

タイトルの"The Love We Share Without Knowing"は、ラブホテルに残された孤独な男の書き込みから。
自分は一人ぼっちで、愛する人がいない。時々このラブホテルに一人で来ては、自分の前にいた恋人たちのことを考える。自分がその内の一人だと想像してみる。抱きしめる相手がいたらと想像してみる。この部屋にいると、愛されるというのがどういうことか想像できるような気がする。一時間、時には二時間をここで過ごす。寂しくてどうしようもない時は、一晩過ごすこともある。このメモを読んでくれてありがとう。互いを知らぬまま愛を分かち合えたことに感謝します。(P86)

この男の寂しさは、エピグラフで挙げられている金子光晴「寂しさの歌」につながるんでしょう。

読み終わったら、また感想を書きます。<追記>
どうやら意図的に過去の文学作品の本歌取りをしてるようです。第一章はサリンジャーの『Catcher in the Rye』、第二章はたぶん桐野夏生の『OUT』、第三章は「Sleeping Beauty」というタイトル通り川端康成の『眠れる美女』、といった具合。元ネタを探すのも本書の楽しみの一つかも知れません。