洋書屋の憂鬱、あるいはNew York Times Best Sellers リストが役にたたないこと

自分で選んでペーパーバックを仕入れてる本屋なんて、あんまりないと思いますが、いざやろうとすると大変なんです。今日はちょっとそういう話を。

普通考えたら、売れ筋商品を仕入れようと思うわけです。そこでアメリカで一番定評のある売上げベストということで、New York Times Best Sellersのリストを見てみましょう。

http://www.nytimes.com/pages/books/bestseller/index.html

いくつもジャンルに分かれてますが、まずはハードカバー・フィクション部門。

ダン・ブラウンやジェームズ・パターソン、スティーヴン・キングといった作家がずらりと並んでいますが、これを仕入れるわけにはいきません。ハードカバーの定価は25ドルから30ドルもするので、これを普通に仕入れて売ろうとすると4千円から5千円もしてしまいます。そもそもアメリカでも定価じゃ売れないので、大手書店では3割4割の値引きは当たり前、Amazon.comでは半額だし、Amazon Kindleでは9.99ドルで購入できるわけです。ベストセラー級の作家なら1年も待てば安価なペーパーバック版が出ることは皆さん御存知ですから、ハードカバーの本はどうしても売れないわけです。

それじゃあ、ということでペーパーバック部門。いわゆる新書サイズのPaperback Mass-Market Fiction部門を見てみましょう。

Christine Feehan、Fern Michaels、Julie Garwood、といった女性作家の名前が目立ちます。今週はまだ少ない方で、ベスト10が全員女性作家ということも珍しくありません。実はこの部門のベストセラーは、ロマンス小説が圧倒的なシェアを占めています。しかも移り変わりが速い。リストの右側に数字が書いてありますが、これはベストセラーリストに過去何週載っているかを表わす数字。ほとんどのタイトルが1か2なのにお気づきになるでしょうが、つまりこうした本は1、2週間だけベストセラーになって、あっという間に消え去ってしまうのです。ロマンス小説がよく売れる店なら、こうした作家の新刊を揃えておくといいでしょうが、うちの店ではフォローできません。しかし、リストを見れば何週間も残っている作品もありますね。アリス・シーボルトの『ラブリー・ボーン』が14週、ジョン・グリシャムの"The Associate"が16週、ジェームズ・パタースンの"Cross Country"が15週。『ラブリー・ボーン』は映画公開があって売れていますが、原作は2002年のもの。グリシャムやパタースンの本は、アメリカでペーパーバック化されるずっと前に日本ではペーパーバックが発売されていて、正直今頃かよ!と言いたくなります。というわけで、Mass-Market部門のベストセラー・リストもあまり役に立ちません。

もっと良質の定番商品を!ということで、Paperback Nonfictionのリストを見てみましょうか。

Three Cups of Tea 154
Eat, Pray, Love 153
I Hope They Serve Beer in Hell 119
The Tipping Point 275
The Glass Castle 160

といったタイトルが並んでいます。横の数字は先ほども言いました通り、過去何週このベストセラー・リストに載っているかを表わします。1年が約52週ですから、これらの本はもう2年から3年、The Tipping Pointに至っては5年以上もベストセラー・リストに載り続けていることになります。どういう加減かわかりませんが、このジャンルは不動の人気を博した本がいつまでも居座っていて、新しい本はほとんど登場しないのです。時々タレントの自伝本や、オプラ・ウィンフリーが推薦した本などが、突如トップに躍り出たりしますが、たいていは3、4週間で失速。その後にはいつものメンバーが再び座を占めることになります。うちの店は一応このリストの定番商品は常備するようにしていますが、あまりにタイトルが変わらないので、週ごとに更新されるリストを張り替えるのが馬鹿らしくなってくるわけです。

まぁ、こんな具合で、自分の店で売れる商品をさがすのは大変なんですよ。