"Brideshead Revisited"はそういう話だったのか

最近読んだ『バーティミアス』とナルニア・シリーズの第一巻『魔術師の甥』がいかにも子供向けで今ひとつだったので、イーヴリン・ウォーなど読んでみることにしました。グレアム・グリーンとか、クリストファー・イシャーウッドとか、あの時代のイギリス文学って大人の文学って感じでしょ。

昔買ったはずの吉田健一訳『ブライヅヘッドふたたび』が見つからなかったので、図書館で小野寺健訳『回想のブライズヘッド』を借りてくる。冒頭は1944年、第二次大戦下のイギリス。主人公のチャールズ・ライダー大尉はいつ終わるとも知れない訓練キャンプの日々に倦み果てている。一切行き先を知らされぬまま次の宿営地である屋敷にたどりついた大尉は、そこがかつて輝かしい夏の日を過ごした思い出深いブライズヘッドであることに気づいて愕然とする……。

というあたりで導入部が終わり。時代は20年遡って1923年。名門オックスフォードに入学した19歳のチャールズは、そこで実に魅力的な青年セバスチアンに出会う。初めて彼の部屋に呼ばれていった場面がこちら。

 あとの客もまもなく帰っていった。わたしもいっしょに帰ろうとしたのだが、セバスチアンが「もうすこしコアントローを飲んで行きたまえ」と言うので残ると、しばらくして彼は、「これから植物園に行く」と言い出した。
「どうして?」
「木蔦を見たいんだ」
 べつに変だとも思えなかったので、わたしもついて行くことにした。マートン・コレッジの脇を歩きながら、彼は私と腕を組んだ。
「植物園へ行くのは初めてだ」と、わたしは言った。
「チャールズ、君は何も知らないんだね! あそこはじつに美しいアーチがあるし、ぼくがまったく知らなかったいろいろな木蔦があるんだ。あの植物園がなかったら、ぼくはいったいどうなることか」
 かなりたってようやく自分の部屋に戻ってみると、今朝出たときとまったく同じその部屋が、それまでとはちがって索漠と見えた。何がいけないのだろう? 黄水仙以外は、何もかもうつろに見えたのだ。屏風だろうか? 屏風を壁に向けて裏返してしまうと、少しはましになった。
(『回想のブライズヘッド(上)』イーヴリン・ウォー作、小野寺健岩波文庫版 P64より引用)

ガーン! そういう話だったのか……。全然知らなかったよ。慌てて海野弘さんの『ホモセクシュアルの世界史』に当たると、確かに1920年代のオックスフォードやケンブリッジでハンサムな男たちによる同性愛的文化が花開いていたことがわかる。バレエ・リュスのレオニード・マシーンを崇拝したりした時代。イーヴリン・ウォーもまさに中心にいた一人だったのね。男前の文化は1930年代になると政治に巻き込まれ、特にケンブリッジにいた4人がソ連のスパイであることが発覚して大騒ぎになるのだけれど、それはずっと後の話だ。

下手すると読み過ごしてしまいそうだけれど、昔の人は微妙なことを上手に書いたもんですな。