2009年ブッカー賞発表近づく

イギリス連邦を代表する文学賞であるブッカー賞の発表が10月6日と近づいてきました。

今回のブッカー賞に関しては、アメリカを代表するSF作家キム・スタンリー・ロビンソンの発言が話題を集めています。New Scientist誌上で発表した記事の中でロビンソンは、最近のイギリスSFが黄金時代を迎えており、イギリス文学のなかでも最上の部分を担っていると賞賛する一方、ブッカー賞を初めとする文学賞が完全に無視していることに対し痛烈な批判を加えています。

最近のイギリスSFは、近未来に我々が遭遇するであろう問題をリアリスティックに考察した作品、時空を超えた遠未来を描きながらも人類が種として文明として選択すべき問題をアレゴリカルに描いた重厚な作品が数多くある。一方、ブッカー賞に選ばれるのは近現代を扱った歴史小説ばかり。確かに優れた歴史小説はあるけれども、偉大なモダニストが作り上げたものをこじんまりと繰り返してるだけじゃないか。たとえばの話、第一次大戦についてフォード・マドックス・フォードの"Parade's End"を超える作品があるだろうか? こうした歴史小説は、SFのように「現在」と向き合ってはいない。だから、この10年のブッカー賞のうち3つか4つはSF小説に与えられるべきだったと思う。例を挙げれば、2005年はジェフ・ライマンの"Air"が、2004年はグウィネス・ジョーンズの"Life"が、1997年はM・ジョン・ハリスンの"Signs of Life"が受賞すべきだった。今年のブッカー賞はおそらくアダム・ロバーツのSFコメディ"Yellow Blue Tibia"に与えられるべきだったろう。

いつも通りの超訳ですが、趣旨はこんな感じです。

(海を越えたSF界の重鎮にこんなことを言われて、アダム・ロバーツ本人が椅子から転げ落ちそうになったという記事がこちら。)

http://www.guardian.co.uk/books/booksblog/2009/sep/24/science-fiction-adam-roberts-booker

この記事に対してブッカー賞選考委員のジョン・マランは、SFは自閉していて考慮するに値しないと言わんばかりの発言をしています。「私が18のころはまだ他のジャンル同様に受け入れられていた」。しかし現在は「本屋の特殊な一角に並べられていて、仲間うちで集まったりしている特殊な趣向を持った特殊な人たちが買ってるだけだ」……って、ヒドイですね、これ。

確かにブッカー賞歴史小説、しかも審査員たちが子供時代をすごしたであろう第一次大戦から第二次大戦にかけてを舞台にした作品が選ばれることが多いと言われています。また、今年のShort Listに選ばれたのが、ことごとく歴史小説ばかりなんですわ。ということで、候補作は以下の6作。本屋的には、ヒラリー・マンテルやサラ・ウォーターズなど売れ筋の作家が入ってくれて、ちょっと期待の持てるリストではあります。10月6日の発表を楽しみに待ちましょう。

A S Byatt The Children's Book
J M Coetzee Summertime
Adam Foulds The Quickening Maze
Hilary Mantel Wolf Hall
Simon Mawer The Glass Room
Sarah Waters The Little Stranger