"Man in the Dark" by Paul Auster

Man in the Dark

Man in the Dark

読了しました。
ここ最近のオースター作品の中では一番の出来じゃないでしょうか。

主人公は70過ぎの文芸評論家。愛する妻に先立たれ、交通事故で車椅子生活を余儀なくされている。同居しているのは、夫に捨てられた娘と、恋人を殺された孫娘の二人。揃って伴侶を失った三人による奇妙な共同生活が、もう何ヶ月も続いている。

「I am alone in the dark, . . .」で始まる物語は、不眠症である主人公がベッドで過ごす長い一夜を描いている。どうやら今夜もあまり眠れそうにない。かといって、思いのままにまかせていると、亡くした妻のことを考えてしまう。それだけはどうにも耐えられない。何か他のことを考えよう、なるべく当たり障りのないことから……。

こうして不幸な家族の物語が少しずつ語られていく。書きかけの回想録のこと、娘の仕事のこと、孫娘と一緒に観た映画のこと……。そうした回想の間に、別の物語が挟まれていく。それはイラク戦争911もなかった世界。2000年の選挙をめぐってアメリカが分断し内戦状態となった世界だった!

老評論家の回想とパラレルワールドの物語が同時進行していくわけだが、ネタバレを承知で書くと、パラレルワールドの物語は小説の3分の2あたりでアンチクライマックスなエンディングを迎える。所詮そんなものは、本当のことを考えないためのトリックでしかなかったのだ。同じように眠れぬ夜を過ごしていた孫娘が主人公の部屋を訪れ、初めて本当の会話が始まる。短いながら家族の絆の強さが伝わってくる感動作。