カズオ・イシグロ新作発売記念インタビュー

Nocturnes

Nocturnes

GuradianのサイトにKazuo Ishiguro のインタビューが掲載されています。
http://www.guardian.co.uk/books/2009/apr/27/kazuo-ishiguro-interview-books

間もなく発売される新刊「Nocturnes」についてのインタビューがメインですが、これまでの作家人生を振り返っている部分も興味深いです。イシグロ本人の言葉を引用した部分が、実にイシグロらしく素晴らしくて、全部訳してみたい衝動に駆られてしまいます。

  • 1982 A Pale View of Hills
  • 1986 An Artist of the Floating World
  • 1989 The Remains of the Day
  • 1995 The Unconsoled
  • 2000 When We Were Orphans
  • 2005 Never Let Me Go


こうして作品リストを眺めてみると、ほぼ5年ごとに新作を発表してきていることがわかります。特に最近は5の倍数の年がイシグロ・イヤーだったわけですから、今回の新作は1年前倒しということになります。このあたりを語るイシグロの言葉がいいですね。

ある時、自分が本を出すペースは何て遅いんだろうと気づいたんです。作家をやってると、今から死ぬまでに何冊ぐらい本を書けるか、計算できてしまう日が来るんですね。そしたら何と、あと4冊しか残ってないじゃないですか(笑)。これはちょっとマズイんじゃないかと。それでまぁ、ちょっとペースをあげた方がいいなと思ったわけです。

ううーん、ちょっとニュアンスが違うなぁ。最後の部分は「So I thought I'd better adopt a less leisurely attitude.」となっていて、直訳すると「もうちょっとのんびりじゃない態度を身につけた方がいいかなと思った」なんだけど、こういう婉曲表現がイシグロらしくてとても良いのです。

さて、問題の新刊「Nocturnes:Five Stories of Music and Nightfall」ですが、5つの短編を収めたカズオ・イシグロ初の短編集となります。本人は「短編集(a collection of short stories)」という呼び方が気に入らないそうで、バラバラに発表した短編を単にまとめたものじゃなくて、最初から最後までこの本のために書いた作品集だということ。このあたりは、最近出た「Monkey Business」での村上春樹のインタビューと響き合います。実は、これから死ぬまでに何冊書ける……という話題もこの村上さんのインタビューに出てきていて、この二人の作家の近親性を感じさせるものだったりします。

表題作かどうかわかりませんが(後註:一番最後のCellistsという作品でした)、収録されている一篇のあらすじを採録。これだけでもうイシグロとしか言いようがありません。

カフェで生活費を稼いでいる若いハンガリア人のチェロ奏者が、チェロ名人を自称するアメリカ人女性と知り合いになる。彼女は毎日やってきて、熱心に彼を指導する。「あなたには素質があるわ。絶対よ。あなたは可能性を秘めている……。」不思議なことに彼女はチェロを持っていないようなのだが、何週間も経ってようやくその理由が明らかになる。実のところ彼女はまったくチェロを弾けないのだ。自分の音楽の才能に絶対の自信を持っていた彼女は、どんな教師も自分に匹敵しないとみなし、不完全な技術で自分の才能を曇らせるよりも、いっそ初めから弾かないという道を選んだのだった。「少なくとも私は持って生まれた才能を傷つけることはしなかったわ」と彼女は言う。