ペレックの代表作『煙滅(La Dispartion)』の翻訳が出ます

ほほう、ジョルジュ・ペレックのLa Dispartion が翻訳されたんですか。こいつは驚き。

メタフィクション好きの皆さんは御存知でしょうが、ペレックはウリポに属する作家で、文学の記号性や順列・組み合わせ性にこだわった実験的な作風で知られてます。代表作『人生使用法』が翻訳で読めますので興味のある方は是非手にとってみてください。

来年1月に翻訳が出る『煙滅(La Dispartion)』はペレックのもう一つの代表作で、作中に「e」の文字が一つも出てこないというアクロバティット芸で有名。ウリポを代表する成果の一つでもあります。こういう特定の文字を使わないという遊びをリポグラムというんですが、ペレックはこれの名人で、逆に「e」以外の母音を使わない短編まで書いるとか。

実はこの"La Dispartion"は"A Void"というタイトルで英語に翻訳されていて、恐るべきことにこの英語版にも「e」の文字は使われていません。訳したのが作家のギルバート・アデアと聞くと、ニヤリとされる方がいらっしゃるかも。

では今回の日本語訳はどうかというと、「世界から 「い」 が消え、ある男が失踪した。そこに隠された秘密とは。」と紹介文にあるので、「い」の文字を使わずに訳してあるんでしょう。どうやって消えた文字のことを表現するのか気になります。

こういう話をすると筒井康隆さんの『残像に口紅を』を思い出される方があるかもしれません。一章ごとに文字が一つづつ消えていくという趣向で、執筆時はワープロのキーボードに画鋲を貼って、消えた文字を打たないようにしたというエピソードが強烈。もちろんペレックの影響があってのことでしょうが、実はこういう作品は他にもいくつかあって、筒井さんの直接の霊感元がどこかはわかりません。

例えばWalter Abishという作家が"Alphabetical America"という作品を書いているんですが、第1章は「A」で始まる単語しか使われていません。第2章は「A」「B」で始まる単語、第3章は「A」「B」「C」という風に使える単語が増えていって、第26章で折り返し。最後はまた「A」で始まる単語だけで終わるという趣向。

もう一つ、"Ella Minnow Pea"という小説があるんですが、これは"The quick brown fox jumped over the lazy dogs"という有名なパングラム(アルファベットのすべての文字を含む文章)の考案者が作った島国を舞台にしたもの。島の中央にある記念塔にこのパングラムが掲げられていて、なぜか文字を刻んだタイルが次々に剥落してしまいます。それに合わせるように政府は書き言葉でも話し言葉でもその文字の使用を禁じてしまい……という具合。

えーっと、何だっけ。そうか、ペレックの翻訳を記念して、翻訳された塩塚秀一郎さんと書評家の豊崎由美さんによる対談がジュンク堂書店池袋本店で行なわれるそうで、東京の人がとってもうらやましいです。

http://www.junkudo.co.jp/newevent/evtalk.html#20100116ikebukuro

追加:
1月に出る翻訳は、「い」を使わないだけではなく、い段の文字すべて(いきしちにひみりゐ)を使わないという超絶テクの労作だとわかりました。