"Uncle Petros and Goldbach's Conjecture"読了

途中で『犬の力』を読み始めたので間が開いちゃったけど、ようやく読了。面白かったっす。

ゴールドバッハの予想」という数学史上有名な難問に取り組んで人生を棒に振ってしまった数学者の話が中心になっていて、その甥で自らも数学者志望の青年と伯父との交流が枠物語という構成。

ゴールドバッハの予想」というのは、フェルマーの定理、ポアンカレ予想と並んで有名な数学の未解決問題の一つ。「2より大きいのすべての偶数は、二つの素数の和であらわされる」というシンプルな見かけながら、素数に関わる問題が往々にしてそうであるように扱いが難しく、200年以上も未解決のままになっている。

19世紀末の生まれの「ペトロス伯父」は幼い時から天才的な数学センスを発揮し、いつしか「ゴールドバッハの予想」に取り憑かれるようになる。折りしも時代は1920年代。数論で高名なケンブリッジのハーディ教授やラマヌジャンの知己を得たペトロス伯父は、すべてを捨ててこの問題に没頭する。研究は順調のようにも見えたが、解決を見ぬまま20年近い月日が流れてしまう。そんな時に登場したのがゲーデル不完全性定理で、それまで「真なる命題は必ず証明できる」と信じてきたペトロス伯父は、「真であっても証明できない命題が存在する」「ある命題が証明可能か否かを言うことはできない」という非情な定理に心を折られ、ついに研究を断念するに至る……。

著名な数学者たちが登場する伯父の回想シーンも勿論興味深いのだけれど、本書がただの数学者の肖像で終わらないのは、語り手である甥の物語がしっかりとしたビルドゥングスロマン(成長物語)になっているから。幼い頃は親戚中の厄介者扱いされていた伯父が、語り手の成長とともに偉大な数学者として憧れの対象となり、自らも数学者を目指すようになる。伯父の昔話を聞いたあとも二人の関係はゆっくりと変化していき、語り手が伯父の人生に積極的に関わろうとする姿勢が意外なエンディングを招いてしまうという仕掛けが素晴らしい。

マーティン・ガードナーとかイアン・スチュアートとか、数学を題材にした小説(っぽいもの)を書いている数学者は何人かいますが、本書はそうしたものとは一線を画して立派な小説になっています。読んで損はありません。

Uncle Petros and Goldbach's Conjecture

Uncle Petros and Goldbach's Conjecture

ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」 (ハヤカワ・ノヴェルズ)